浸透液・除去液・現像剤を適用することで、表面に開口した微細なきずの像を拡大して可視化。

浸透探傷試験とは
浸透探傷試験(PT:Penetrant Testing)は、表面のきずを検出する非破壊検査の代表的な方法の一つです。
試験方法には細かい分類がありますが、基本は毛細管現象という物理現象を利用した試験です。浸透液・除去液・現像剤を用いて表面に開口した微細なきずを可視化します。
浸透探傷試験の手順
PTにおいて最も一般的な「溶剤除去性・染色探傷試験・速乾式現像法」の手順を紹介します。
赤色の浸透液と白色の現像剤を用いる方法で、現場では通称「カラーチェック」と呼ばれています。
① 前処理

まず試験体の表面を清掃します。タワシやブラシで塵埃や錆などの固形物を除去し、除去液を用いて油脂や水分を念入りに拭き取ります。その後ドライヤーで試験面を十分に乾燥させます。
前処理は次の「浸透処理」の工程において、きず内部へ浸透液を確実に浸透させるために重要です。
② 浸透処理

刷毛に赤色の浸透液を含ませ、試験対象範囲より少し広めに塗布します。溶接部の試験対象範囲は溶接部とその両側の熱影響部となります。
浸透液を過不足なく塗布することが重要です。浸透時間は諸条件によって異なり、溶接部の場合は通常5分〜15分です。


③ 除去処理

余分な浸透液(余剰浸透液)を乾いたウエスで拭き取り、さらに除去液を少量染み込ませたウエスで拭き取ります。溶接部の場合はビード波目の間の凹凸箇所の拭き取り残しがないよう注意深く拭き取ります。
きず内部に浸透した浸透液だけが残る状態にすることが重要です。また、この時にきず内部に浸透した浸透液まで除去しないよう注意が必要です。


④ 現像処理

試験体の表面に白色の現像剤を吹き付けて塗布します。現像の精度を上げるため、均一に塗布することが重要となります。
基本的な注意事項は、事前にスプレー缶をよく振ること、出始めは試験対象範囲に吹き付けないこと、現像処理中は噴射を止めないことです。

⑤ 観察・判定

きずがあれば、きず内部に浸透している浸透液が現像剤の表面に吸い上げられます(毛細管現象)。
きずは現像剤の白色塗膜の上に赤い「きず指示模様」となって現れますので、これを目視で観察し、判定基準と照らし合わせて判定します。


割れなどは線状、ピンホールは円形状の指示模様となるため、きずの種類は特定できますが、きず指示模様は実際のきずの大きさより拡大されるため、きずの実寸法は得られません。また、きずの深さは推定できません。
【実際の試験状況例】
▲配管溶接部の浸透探傷試験(浸透処理)
▲配管溶接部の浸透探傷試験(現像処理)
浸透探傷試験の特徴
表面のきずを探傷する場合、基本的には浸透探傷試験(PT)か、磁粉探傷試験(MT)かの二択になります。
どちらもきず検出能力の高い検査方法ですが、原理の違いによりそれぞれに長所と弱点(制限事項)があります。両者を比較しての違いがそれぞれの特徴であるとも言えます。
PTはMTに比べて幅広い材質に適用できる
MTは磁気を利用する試験方法であるため、適用可能な材質は鉄などの強磁性体(磁石がくっつく材質)に制限されます。
対してPTは、磁性のないアルミニウム、チタン合金、オーステナイト系ステンレス鋼、セラミックやプラスチックなどにも適用できます。
〈開発の歴史的背景〉
そもそもPTは、非鉄金属や非金属材料の増加を背景に、MTの代替えとなる検査として開発されました。
※正確にはMTが開発されるより前にPTの原型となった「油浸法」がありましたが、きずの検出感度が低いなど多くの課題があり廃れていきました。一度は廃れた「油浸法」の原理に着目し、近代的に進化させて高い検出能力を実現したのが現在のPTとなります。
〈PTを適⽤できる材質〉
鉄鋼、⾮鉄⾦属、⾮⾦属のいずれにも幅広く適⽤可能です。
〈PTを適⽤できない材質〉
浸透液を吸収してしまう多孔質材料・吸湿性材料や、⽯油系溶剤により劣化・変質
してしまう材料には適⽤できません。
また、表⾯が塗装やメッキなどでコーティングされているものについては、事前に
コーティングを剥がす処理が必要となります。
開⼝しているきずであれば、きずの⽅向に関わらず検出可能
MTは表⾯に開⼝したきずだけでなく表⾯直下のごく浅い位置にあるきずも検出す
ることができますが、磁⼒線の向きと平⾏なきずは検出しにくいため、⽅向を変え
て2回試験を⾏わなければならない場合があります。
⼀⽅、PTで検出できるのは表⾯に開⼝したきずのみですが、1回の試験であらゆ
る⽅向のきずを検出することができます。
⽐較的⼿軽に実施できるが、⼯程が多く時間を要する
PTとMTの⽐較において、PTは特別な装置や電源を必要としないため、現場での
検査が容易です。しかし検査の⼿順がMTよりも多く、時間を要します。
またPTは溶剤除去(拭き取り)作業など⼈の⼿に頼る⼯程があるため、⼯場の製
造ラインに組み込んで⾃動化することは困難です。
浸透探傷試験の種類
主な浸透探傷試験⽅法の分類と組み合わせ
PTは「観察⽅法」「余剰浸透液の除去⽅法」「現像⽅法」の違いにより、いくつ
かの⽅法に分類されます。探傷剤も各⽅法に適したものを組み合わせて使⽤しま
す。
下の図は主な「観察⽅法」「余剰浸透液の除去⽅法」「現像⽅法」と、その組み合
わせを表したものです。

⼿順書等に記載される試験⽅法は「余剰浸透液の除去⽅法」→「観察⽅法」→「現
像⽅法」の順番に記載されます。
記載例:⽔洗性蛍光浸透探傷試験(湿式現像法)
しかし試験⽅法を選択する際は、最初に「観察⽅法」を決め、後続処理を絞り込ん
でいくという順番になります。
以下は試験⽅法の選択の順番で説明します。
観察⽅法の分類
PTでは試験結果を⽬視で観察しますが、きずを⽬視できるようにするために⽤い
る浸透液の種類として「染⾊」か「蛍光」かの選択肢があります。
染色浸透探傷試験
赤色染料を添加した浸透液と、白色現像剤を組み合わせて用い、自然光または白色光のもとで観察します。
現像剤塗膜の白色バックグラウンドと赤色のコントラストにより、指示模様を容易に識別することができます。
明るい環境であればいつでもどこでも試験ができるため、現場での検査に広く用いられています。
蛍光浸透探傷試験
蛍光物質を添加した浸透液を用い、暗所でブラックライト(紫外線)を照射して観察します。きず指示模様はブラックライトにより黄緑色に発色します。
蛍光浸透液と組み合わせて使用する現像剤は白色現像剤に比べて少し透明感があります。透明感のある現像剤とブラックライトの相乗効果により、ごく微細なきずも検出やすく、特に航空機部品や重要保安部品などの精密検査に適しています。
染色タイプは、きず内部の浸透液が現像剤塗膜の上まで吸い上げられなければ、きず指示模様として視認することができません。
蛍光タイプは、きず内部の浸透液が現像剤塗膜の上まで達していなくても、ある程度吸い上げられていればブラックライトに反応します。
※染色、蛍光ともに油性か水性かの選択肢があり、どちらを使用するかは次のステップの除去方法を選択する際や、試験体の材質等に応じて考慮します。
余剰浸透液の除去方法の分類
除去処理では、きず内部に浸透した浸透液を除去することなく、試験体表面の余分な浸透液のみを除去しなければなりません。その手段は「溶剤除去性」「水洗性」「後乳化性」の3種類に分類されます。
溶剤除去性
標準的な浸透液は油性であるため、水では洗い流せません。有機溶剤を含ませたウエスで余剰浸透液を拭き取る必要があることから「溶剤除去性」と呼ばれています。
拭き取りすぎあるいは拭き取り不足にならないよう、ちょうど良い加減を覚えることが大切です。
溶剤除去性は、表面が滑らかな試験体(車軸や機械加工品など)に向いています。溶接ではTIG溶接に溶剤除去性を適用します。
水洗性
あらかじめ乳化剤(界面活性剤)が添加された浸透液を用い、水を注ぎかけて余剰浸透液を洗浄する方法です。
溶剤除去性に比べると効率が良いですが、過洗浄にならないよう注意が必要です。
水洗性は、ネジなどの複雑な形状のもの、鋳物など表面が粗いもの、大型のもの、量産品の検査に向いています。
後乳化性
油性の浸透液を用いて浸透処理を行った後、試験面に乳化剤を適用して水洗浄を可能にする方法です。
適切な乳化時間を設定して厳守しさえすれば、過洗浄のリスクが極めて低く、検査員による品質のバラツキもなく、安定した試験結果が得られます。
そのため、航空機部品や重要保安部品などの経時変化を調べるための試験にも用いられています。
現像方法の分類
除去処理後、きず内部に残っている浸透液を視認可能な「きず指示模様」として現すための現像方法は「速乾式」「湿式」「乾式」「無現像法」の4種類に分類されます。
「速乾式」「湿式」「乾式」はいずれも白色微粉末による毛細管現象を利用してきず内部の浸透液を吸い上げる方法ですが、「無現像法」は白色微粉末を使用せず、加熱などによってきず内部の浸透液をにじみ出させる方法です。
速乾式現像法
揮発性の有機溶剤に白色微粉末を懸濁(分散)させたエアゾールタイプの現像剤を、試験体にスプレーして塗布する方法です。
現像剤が素早く乾燥し、その塗膜が白色のバックグラウンドを形成します。
赤色の浸透液を用いる溶剤除去性染色探傷試験と組み合わせて用いられることが多い現像方法です。
きず指示模様は実際のきずよりも拡大された模様となります。よって微細なきずも検出しやすいですが、時間の経過とともににじんで変化するため、その点に留意が必要です。
湿式現像法
白色微粉末を水に懸濁(分散)させた液体を適用した後、試験体を乾燥させて現像剤塗膜を形成させます。
現像槽に試験体を浸漬させる方式が主となっており、多量の検査に向いています。
また液体であるため、複雑な形状の試験体や凹凸のある表面にも現像剤を均一かつ薄くコーティングすることができます。
湿式現像法は一般的に水洗性蛍光探傷試験と組み合わせて用いられます。
きず指示模様はかなり拡大されるため、速乾式と同様にきずの検出が容易かつ、時間経過による注意が必要です。
乾式現像法
試験体の表面を乾燥させた状態で白色微粉末をそのまま適用します。
粉末の中に試験体を埋没させる浸漬法、粉霧状にして吹き付けるスプレー法があります。
乾式現像法では、きず部(浸透液で湿った部分)にのみ粉末が付着します。
現像処理後に余分な粉末を表面から取り除いてしまえば、きず指示模様がにじんで拡大することはなく、実際のきずの寸法とほぼ同等の指示模様が得られます。
ただし白色のバックグラウンドは得られないため、蛍光浸透探傷試験にのみ適用され、染色浸透探傷試験には適用されません。
無現像法
きずを検出するプロセスで現像剤(白色微粉末)を使用しない特殊な方法です。
主な方法:蛍光浸透液を塗布→表面を水洗→加熱乾燥処理→きず内部からにじみ出した浸透液をブラックライトで観察
現像剤による白色のバックグラウンドが得られないため、蛍光浸透探傷試験にのみ適用され、染色浸透探傷試験には適用されません。
この方法で得られるきず指示模様はほとんど拡大しないため、微細なきずの検出能力は低いですが、中程度以上の割れなどは効率よく検出できます。よって鋳鋼品などの検査によく用いられています。
PTの方法としては「溶剤除去性・染色浸透探傷試験・速乾式現像法」が最も一般的ですが、弊社では他の様々な試験法も用いて製品の品質確保に協力しています。
▲溶剤除去性染色浸透探傷試験
▲水洗性染色浸透探傷試験
最適な試験方法を模索・検討している方、従来の方法よりも効率的あるいは効果的な方法をお求めの方は、ぜひ大検へご相談ください。
浸透探傷試験の最高位資格『PTレベル3』保持者が理論と経験に基づきご提案するとともに、わかりやすく丁寧にご説明いたします。
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