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磁粉探傷試験(MT)

目的
表面欠陥検出

試験体を磁化して磁粉を散布し、微細な表面きずを高精度に検出。
開口していない表面近傍のきずも検出可能。

磁粉探傷試験とは

磁粉探傷試験(MT:Magnetic Particle Testing)は、表面のきずを検出する非破壊検査の代表的な方法の一つです。非常に微細なきずも高精度に検出することができます。

試験体を磁化した上で表面に磁粉を散布し、きずの周りに集まった磁粉を観察して評価します。

磁化方法は、検出したいきずの方向や試験体の形状などに応じて数種類に分類されています。
適切な磁化方法を選ぶことで複雑な形状の試験体にも対応可能です。

また、直流電流で磁化した場合、表面に開口しているきずだけでなく、表面近傍の開口していないきずも検出することができます。

磁化できる強磁性体の材質にのみ適用可能

試験体を磁化する必要があるため、磁粉探傷試験を適用できるのは強磁性体の材質に限ります。

強磁性体とは、磁石に強く引き寄せられる性質をもち、外から磁界を与えることで磁化する(磁石の性質を帯びる)物質です。代表的な物質としては鉄、ニッケル、コバルトが挙げられます。

磁石に引き寄せられない非磁性体の金属(アルミニウムやチタン、オーステナイト系ステンレスなど)、またプラスチックなどの非金属に対しては、浸透探傷試験(PT:Penetrant Testing)を適用します。

磁粉探傷試験の原理

磁粉探傷試験は、磁石の性質を利用した試験です。

まずは「試験体を磁化することで、なぜ表面のきずが見つかるのか?」という点を、棒磁石の図で説明します。

磁石に切れ目(きず)を入れると、切れ目に磁極ができる

棒磁石を真ん中で切り離してもN極とS極に分かれることはなく、両極をもつ2つの磁石となります。いくつに分割しても同じ現象が起こります。
これは、磁石の内部にミクロな磁石(磁気モーメント)が自発的に整列して詰まっているためです。

棒磁石
矢印
切断された棒磁石

※⼀般的に棒磁⽯の図は左側がN極・右側がS極の向きで描かれますが、後続の説明をわかりやすくするため、ここでは左側がS極・右側がN極の図を⽤います。

さらに、完全に切り離さず、磁石の表面に少し切れ目を入れた場合でも、切れ目の両脇に新たなN極とS極が発生します。

少し切れ⽬を⼊れた棒磁石

切れ目を入れた棒磁石に砂鉄を振りかけると、磁石の両端だけでなく切れ目の部分にも砂鉄が集まります。
切れ目の大きさにかかわらず、ごくわずかなきずを付けただけでも、きずの部分に磁極が発生して砂鉄を引き寄せます。

に砂鉄を振りかけた棒磁石

試験体を磁化すると、表面のきずが磁極となり磁粉を引き寄せる

磁粉探傷試験では試験体を磁化することで、上記と同様の現象を発⽣させ、きずを検出します。

試験では砂鉄の代わりに蛍光磁粉などを用い、きずに集まった磁粉模様を「きず指示模様」として観察します。

磁粉模様は、実際のきずの幅より拡大された模様となるため、ごく微細なきずも発見することができます。

試験体を磁化すると、表⾯のきずが磁極となり磁粉を引き寄せる
溶接部の磁粉模様(きず指⽰模様)の例

▲溶接部の磁粉模様(きず指⽰模様)の例

磁粉探傷試験の⼿順

以下は、蛍光磁粉を適用してブラックライトで観察する最も一般的な試験の手順です。
蛍光磁粉を適用する場合、観察は暗室環境で行う必要があります。工場などの現場で試験を行う際は、手軽に組み立てられる簡易暗室を用います。

① 前処理

洗浄剤やグラインダを用いて試験体表面の汚れや異物を取り除きます。
油、錆、埃などが残っていると磁粉がスムーズに作用せず、また擬似模様の原因ともなるため、丁寧に前処理を行う必要があります。

② 磁化

磁化装置を用いて試験体を磁化します。磁化方法は試験体の形状や予測されるきずの向きに応じて選択します。

磁化する際は、予想されるきずの方向と磁束の方向が直交するように磁化することが重要です。(詳しくは後述します)

③ 磁粉の適用

蛍光磁粉を均一に散布または塗布します。きずがあればきず箇所に磁粉が集まります。
磁粉の動きは30秒ほどで収まり、きずの真上に磁粉模様(きず指示模様)が形成されます。

④ 観察

暗室でブラックライト(紫外線)を照射して磁粉模様を観察します。ブラックライトを照射した状態で写真撮影して記録します。

※磁粉探傷試験では、きずの位置・長さ・形状は判別できますが、きずの高さに関する情報は得られません。

⑤ 後処理

試験後は磁粉を除去し、必要に応じて脱磁作業や防錆処理を行います。

脱磁とは、磁化した試験体の残留磁気を取り除く作業です。磁化によって金属内部で一方向に整列した磁区(磁気の最小単位)の向きをバラバラにし、互いの磁力を打ち消し合わせます。

磁粉探傷試験の重要ポイント

きずの検出には「きずの向き」と「磁束線の向き」が重要

磁粉探傷試験できずを確実に検出するには「きずの向きと磁束線の向きが直交していること」が条件となります。

磁束とは特定の面積を通過する磁気の総量を示すものであり、磁束線は「磁束の流れや密度を視覚的に表すために考えられた仮想の線」です。

磁束線はN極から空間へ出て反対側のS極から入り、内部ではS極からN極へと向かいます。途切れることなくループし、始まりも終わりもありません。

棒磁石の磁束線の流れ(簡略図)

▲棒磁石の磁束線の流れ(簡略図)

磁束線を妨げるきずから「漏洩磁束」が発⽣

磁化した試験体の表面にきずがある場合、磁束線はきずを迂回し、表面近くの磁束は空間へ漏れ出します。空間に漏れ出す磁束を「漏洩磁束」と言い、漏洩磁束はきずの脇のN極側から空間へ出てS極側から内部へ戻ります。

漏洩磁束が発生する図

きずの磁極に発生した漏洩磁束が磁粉を引き寄せ、きずの真上に磁粉模様を形成します。

磁粉模様を形成する図
検出しやすいきず=漏洩磁束が多く発生するきずは、磁束線と直交するきず

ここからが重要なのですが、表面にきずがあれば必ず漏洩磁束が発生するわけではありません。

漏洩磁束が発生するのは、“きずが磁束の流れを妨げている” 場合です。

磁束線に対して直角なきずは磁束の流れを妨げるため、きずからの漏洩磁束が多く発生しやすいですが、磁束線に対して平行なきずは磁束の流れを妨げにくいため、漏洩磁束がほとんど発生しません。

【試験体を上から見た図】

▲磁束線に対して直角なきずからは漏洩磁束が発生しやすい

▲磁束線に対して平行なきずからは漏洩磁束が発生しにくい

きずからの漏洩磁束がわずかであれば漏洩磁束に引き寄せられる磁粉もわずかとなり、目視できるほどの磁粉模様が形成されません。

よって、きずを確実に検出するには、予想されるきずの方向に応じて、きずの方向と磁束線の方向ができるだけ垂直に交わるように磁化する必要があります。
また基本的に、多方向のきずを検出するには、磁化する角度を変えて2回試験を行う必要があります。

線状のきずが最も検出しやすく、点状・球状のきずは検出しにくい

きずの形状も漏洩磁束の発生および検出難易度に影響します。
最も検出しやすいのは、漏洩磁束が多く発生する線状のきずです。
検出が困難なのは、漏洩磁束が発生しにくいピンホールのような点状・球状のきずです。

磁化⽅法の分類

試験体を磁化する方法は、試験体に直接電流を流して磁化する「通電法」と、試験体に磁束を投入して磁化する「磁束投入法」の2種類に大別され、それぞれ4種類の磁化方法に細別されています。

◎磁化方法についてはご相談ください。

種類 磁化方法
通電法 軸通電法
直角通電法
プロッド法
磁束貫通法
磁束投入法 電流貫通法
コイル法
極間法
隣接電流法

通電法

試験体に電極を当てて直接電流を流し、その電流の周りに発生する磁界を利用して試験体を磁化させる方法です。

アンペールの右ねじの法則(電流が流れるとその周囲に磁界が発生する現象と、その磁界の向きを定義した物理法則)により、通電法では基本的に電流の向きと平行なきずが最も検出しやすいきずとなります。

通電法の注意点:電極と試験体の接触が悪いとスパークが発生し、試験体表面を焼損するなどのリスクがあります。そのため熱処理済みの精密部品や、スパークが許されない重要保安部品にはあまり向きません。

軸通電法
軸通電法

試験体の軸方向に直接電流を流し、電流の周りにできる円形の磁界を利用して試験体を磁化させる方法です。

検出しやすいきずは軸方向に平行なきず、検出しにくいきずは軸に直角な方向のきずです。

軸通電法は主に丸棒状の試験体に適用します。ただし、パイプなどの中空形状の試験体の内周面のきずは軸通電法では検出できません。内周面の探傷には磁束投入法の電流貫通法を適用することが多いです。

直角通電法
直角通電法

試験体の軸に対して直角な方向に電流を流し、電流の周りにできる磁界を利用して試験体を磁化させる方法です。

軸通電法では検出できない、軸に直角な方向のきずを検出することができます。

また、軸通電法やコイル法では検出困難な「試験体の軸端部付近に存在する、軸に直角な方向のきず」を検出することができます。

プロッド法
プロッド法

試験体の局部に2つのプロッド(電極)を接触させ、プロッドを通して電流を流し、電流の周りに発生する円形状磁界によって試験体を磁化させる方法です。

試験体の全断面に電流を流す場合と比べて、より少ない電流値で必要な強さの磁界を与えることができます。

形状が複雑なもの、表面が粗いもの、大型のものに向いており、弊社では基本的に鋳鋼品に対してプロッド法を適用しています。

※試験体からプロッドを離す瞬間などに火花が発生することがあるため、火気厳禁の場所ではプロッド法の代わりに磁束投入法の極間法を用います。

磁束貫通法
磁束貫通法

試験体の孔などに鉄心を通し、この鉄心に交流磁束を流すことによって試験体の孔などの周りに円周方向に誘導電流(交流)を発生させ、その電流の作る磁界によって試験体を磁化させる方法です。

試験体が変圧器の2次側コイルのように働き、誘導電流の作用によって円周方向に磁化されます。

試験体の円周方向のきずが最もよく検出でき、円周方向に直角方向のきずは検出が困難です。

すべての方向のきずを漏れなく検出するために、磁束投入法の電流貫通法と組み合わせて用いることが多いです。

磁束投入法

試験体に電磁石や永久磁石の磁極をあてがい、発生した磁束を試験体内部へ投入して磁化させる方法です。
試験体に直接電流を流さないため、試験面を焼傷する恐れがありません。

電流貫通法
電流貫通法
電流貫通法

パイプなどの管材の外周面および内周面、並びに孔のある機械部品や鋼構造物の孔の周りなどを検査するために用いる磁化方法です。

孔に導電体を貫通させ、その導電体に電流を流し、電流の周りにできる円形の磁界を利用して試験体を磁化させます。

管材の内外面および構造物の孔の周りの、導電体と平行方向のきずが最も検出しやすく、円周方向のきずは検出が困難です。

コイル法
コイル法

試験体をコイルの中に置き、コイルに電流を流した時に発生する内部の軸方向の磁界を利用して試験体を磁化させる方法です。

コイルの軸に直角な方向のきずが最も検出しやすく、コイルの軸と平行な方向のきずは検出しにくいです。

〈コイルの種類〉

ケーブルコイル:試験対象が大型の場合などに、太いケーブルを試験体の周囲に数回巻き付けてコイルを形成します。製品形状にも柔軟に対応できます。

固定コイル:探傷装置に組み込まれた定置型のコイルです。量産部品の試験に適しています。(下の画像は固定コイルです)

極間法
極間法

試験体の一部分または全体を、電磁石または永久磁石の磁極間に置いて磁化させる方法です。

磁化装置が小型で持ち運びしやすく、局所的な探傷が可能で汎用性も高いため、現場での試験をはじめ最も広く活用されています。

〈電磁石と永久磁石の違い〉

電磁石
電磁石は電流を流すことで強い磁界を発生させる磁化装置です。スイッチ操作で磁力のオン・オフができ、試験体への着脱や位置決めが容易で作業性に優れています。
また多くの場合、交流で磁化するため、試験体の板厚の影響を受けずに表面きずを探傷することができます。
短所は電源を必要とする点ですが、最近ではバッテリー式のコードレスタイプもあります。

永久磁石
永久磁石は電源が不要なため、電源が確保できない屋外や高所での試験に向いています。ただし強い磁界を得ることは困難です。仮に強い磁界の永久磁石を用いた場合、試験体から磁極を引き離すのが困難となり作業性が著しく低下します。
また、表皮効果がないため、板厚の厚い試験体には適用できません。

隣接電流法
隣接電流法
隣接電流法

1本またはそれ以上の棒状またはケーブル状の導電体を試験体表面に隣接して平行に配置し、導電体に電流を流し、導電体の周りに形成される磁界を利用して試験体を磁化する方法です。

導電体と平行方向のきずがもっとも検出しやすく、直交方向のきずは検出しにくいです。

図(a)は電流貫通法の応用です。導体中心から試験面までの垂直距離を𝑑(mm)とすると、探傷有効範囲の幅の目安は2𝑑となります。

図(b)はコイル法の応用です。探傷有効範囲はコイル端部から距離𝑑の範囲となります。

交流と直流の使い分け

試験体を磁化する際に直接的または間接的に用いる電流は、交流(AC)と直流(DC)を使い分けます。

交流と直流では電流の流れ方による磁束の分布特性が異なるため、検出できるきずの深さなどが異なります。

交流:表面に開口したきずを高感度に検出

交流は電流が常に変化するため、磁束が試験体の表面近傍に集中します。これを「表皮効果」と言い、表面に開口している微細なきずの検出に高い効果を発揮します。

直流:表面直下の開口していないきずの検出に優れる

直流は電流が一定方向に流れるため表皮効果が起きず、磁束が試験体の内部まで均一に分布します。

表面近傍の磁束密度が低いため、交流に比べると微細なきずの検出感度は劣りますが、表面から2〜3 mm程度までの開口していない内部きずを検出することができます。

表面の凸凹による擬似模様を抑えつつ、やや深い位置にある内部きずを捉えることができるため、鍛造品、鋳造品、肉厚の溶接部などに適用することが多いです。

※直流を用いることが多いのはプロッド法やコイル法などです。磁束貫通法は交流に限定されます。また極間法の可搬型磁化装置の多くは交流専用仕様となっています。

磁粉に関する分類

磁粉を適用するタイミングによる分類

磁粉をいつ試験体に適用(散布・塗布)するかによって、「連続法」と「残留法」の2種類に分類されます。試験体の材質により異なる磁力の保持力に応じて使い分けます。

連続法

磁化電流を流している状態で磁粉を適用します。
磁力の保持力が小さい材質(低炭素鋼など)や、高い検出感度が必要な場合に適用します。最も一般的な方法です。

残留法

磁化電流を切り、試験体の残留磁気を利用して磁粉を適用します。
磁力の保持力が大きい材質(高炭素鋼や熱処理鋼など)にしか使えませんが、効率よく処理できるため、大量の部品検査に向いています。

電流との関係

連続法・残留法ともに、磁化電流は交流・直流のどちらとも組み合わせることができます。

ただし、交流を用いて磁化した場合は、電流を切ると試験体内の磁力が急速に弱まるため、原則として連続法を適用します。

直流を用いて磁化した場合は、電流を切った後も磁力が残りやすいため、残留法との相性が良いです。

磁粉の適用方法(分散媒)による分類

湿式

水や灯油などの液体に磁粉を懸濁(分散)させて使用します。粒径が小さく(約0.2〜10µm)きずへの吸着感度が高いため、微細なきずの検出に向いています。

乾式

乾燥した粉末のまま空気中に散布して使用します。粒径がやや大きく(約10〜60µm)、粗い表面や高温面への適用、表面に開口していないきずの検出に向いています。

視認性(光学的性質)による分類

蛍光磁粉

ブラックライト(紫外線)を照射すると鮮やかな黄緑色などに発光する磁粉です。暗所(20lx以下)で観察します。暗闇の中で強く光るため背景とのコントラストが非常に高く、微細なきずの検出に優れています。

非蛍光磁粉(可視磁粉)

蛍光を発しない磁粉で、黒色・白色・赤色・褐色などの着色顔料が使われています。通常の明るい場所(500lx以上)で観察します。試験体の表面色と対比させて見やすい色の磁粉を選びます。

湿式・乾式との組み合わせ

「蛍光磁粉」と「湿式」の組み合わせが最も高感度となります。
「非蛍光磁粉」と「乾式」の組み合わせは、屋外などで手軽に試験したい場合に適しています。

以上、磁粉探傷試験についてご説明しました。

大検では、持ち込み検査・出張検査のいずれにも対応しております。お客様ご指定の試験方法にて磁粉探傷試験を承ります。

また、試験品や諸条件に応じた最適な試験方法をお知りになりたい方もお気軽にお問合せください。
磁気探傷試験の最高位資格『MTレベル3』保持者が理論と経験に基づきご提案するとともに、わかりやすく丁寧にご説明いたします。

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